(2)第4レグの結果
1)新しい熱水チムニーの発見と熱水のエンドメン
バー、プルーム、堆積物、生物試料の採集
第3レグの成果を踏まえて、熱水プルームの直下で「しんかい6500」による15回の潜航を行いました。その結果、新たな熱水チムニーがRM28,RM29,RM24,RM04で合計8サイト見つかり、チムニーとその周辺から熱水、プルーム、熱水性沈殿堆積物、チムニーおよび生物の試料などフラックスを見積もるために必要なフルセットデータが得られました。調査海域の一番北にあるRM04のチムニー(白樺)は最高温度374℃で鉄に富むスモーカーの代表で他のサイトのチムニーとは異なることがわかりました。
2)広範な地域の地形・地質、岩石の情報の入手
東太平洋海膨の海嶺軸に沿った14°Sから18°22’Sにわたる広範な地域の地形・地質、岩石の情報から各セグメントごとの詳細な情報が得られました。特に海嶺軸に直交した方向(東西方向)の情報が多く得られ、このことから速い拡大軸の発達史についての大きな手掛がりが得られました。
3)長期観測システムの設置に成功
海嶺軸の上に長期熱流量測定装置(ケーブル型と座布団型)、短期長期熱流量測定装置(座布団型)を設置することに成功しました。これは地球の内部から放出される熱流量を正確に測定する装置で、熱フラックスの解明に大きな手掛かりが得られました。また、海底地震計を7基海底に設置し、音源(エアガン発振機)を用いて海嶺の地下構造の解明を行いました。
4)「よこすか」による広域の調査の実施
第3レグと第4レグを通じて母船「よこすか」に装備された観測装置により、東太平洋海膨とその周辺の広域地球物理観測を実施し、地形、重力、地磁気に関して延べ約7,000マイル以上にわたる観測が行われ、14°Sから20°Sの範囲の東太平洋海膨中軸部で今まで地球物理観測値のなかった地域(18°45'〜20°S)も完全に埋められました。これらのデータは中央海嶺の地下構造や温度構造を知るための重要な手掛かりとなります。
6. 今後の予定
東太平洋海膨の一連の調査結果は以上のようにたくさんの成果を収めました。ここで行われた結果は現在解析中のものもありますが概して短期間の観測が主なものでした。今後は長期間の観測が必要になってくるでしょう。その際熱水の温度の長期的、面的変化、拡大系の正確な速度の見積もりなどが重要なテーマになるでしょう。同時に海嶺の地下構造のモデルの構築や、熱水活動、テクトニクス、火山活動、生物活動などを含めた海嶺のモデルの構築が重要なテーマになります。これについては現在1997年に再び東太平洋海膨を訪れて調査することが検討され、期待されています。
謝辞
この小文を書くに当たって振興調整費の報告書などを参照させていただきました。計画そのものは海洋科学技術センターの石塚貢理事長はじめ役員の方々の御理解と御支援を賜りました。また前深海研究部長の堀田宏氏はこの計画を最初から御支援くださり貴重なアドバイスをくださいました。第3レグの首席研究員の浦辺徹郎氏はこの計画の立案の中心人物で、この計画を遂行するに当たり大変な努力をしてくださいました、またこの計画に参加された研究者や「しんかい6500」チームの方々「よこすか」の船長とクルーの方々はこの計画を根底から支援してくださいました。これらの方々に心より感謝の意を表します。
参考文献
1)藤岡換太郎ほか(1995):「MODE'94」の全探検記録.ニュートン、第15巻第10号、26-41。
2)小林和男(1995):大西洋中央海嶺・ケイントランスフォーム断層西瑞接合部(WMARK)の総合調査.JAMSTEC、第7巻第4号、32-39。
3)藤岡換太郎(1996):大西洋中央海嶺TAG熱水マウンドの総合調査−世界最大の海底温泉を探る−.JAMSTEC、第8巻第2号、16-24。
4)海洋科学技術センター(1992):平成3年度科学技術庁委託調査研究海域総合利用調査報告書海域における地球内部からの熱・物質フラックス研究に関する調査。
5)科学技術庁研究開発局(1993):平成4年度科学技術振興調整費海嶺におけるエネルギー・物質フラックスの解明に関する調査報告書(海洋科学技術センター編)。
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